「パイロットフィッシュ」という言葉をご存知だろうか?
熱帯魚を飼育する、 アクアリウムには様々な技法があるらしい。
そのひとつが、 メインの魚が住みやすい環境を作るためだけに、 飼育される「パイロットフィッシュ」だ。
立ち上げたばかりの水槽は、魚たちにとって悪い環境だという。
理由は、 水の汚れを分解するバクテリアの数が少ないからだ。
だから、 アクアリストは、バクテリアの餌になるアンモニアを発生させるために「パイロットフィッシュ」と呼ばれる魚を最初に入れるらしい。
そして、 十分にバクテリアが育ってから、 メインの魚を飼育するのだ。
そうして、 パイロットフィッシュに選ばれた魚は、 過酷な環境の中、 たった数匹で水槽を泳ぎ、 水を作っていく。
――当然、 死んでしまう魚も少なからず居るはずだ。
それでも、 こうすることによって、 高価な魚も安全に飼育することが出来る。
多くの人はパイロットフィッシュたちの末路を承知で、 彼らを水槽に入れる。
それは残酷だが、 必要な存在なのかもしれない。
そして、 僕達が生活するこの社会においても、 パイロットフィッシュになる人が居るのだろう。
そんな「パイロットフィッシュ」を題材にした小説を紹介する。
――「パイロットフィッシュ (角川文庫)」―― 著 大崎 善生
内容紹介(一部抜粋)
一度巡りあった人と二度と別れることはできない。 人は、 一度めぐり合った人と二度と別れることはできない。
今と過去を交差させながら出会いと別れの切なさを綴る青春小説。
三部作の一作目であり、「アジアンタムブルー」、「エンプティスター」に続く。
学生の頃に知人に勧められて読んだ作品。
大崎さんの文体は不思議と独特な雰囲気があり、透明感のある綺麗な文章が魅力的でした。
この本を読んだ後に、記憶の湖を考えてみる。 自分の環境を浄化するパイロットフィッシュは誰だろう? また自分は誰かのパイロットフィッシュなのだろうか? 深く考えさせられる作品でした。
思い返せばまだ若い自分の人生でも振り返ったとき、 そのつもりではなくともパイロットフィッシュが存在したように思えてくる。 知人や経験、 色々思い当たる。
そして誰かの記憶の湖に残るような生き方になりたいと思う、価値観を変える小説でした。