僕たちは、 昔は少年と少女に過ぎなかった。
だが、 いつしか時は過ぎて、僕は大人になった。
だけど、 僕は、 いつ自分が大人になったのだか、 まるで覚えていない。
世の中は本当に、 止め処なく流れ進んでいく。
子供の頃は、 そんなことを意識せずにいた
何もかもが、 当たり前のように感じられていた。
けれども、 考えてみるとそれは不思議なことだ。
『当たり前』になる前、 僕は何を感じていたのだろう。
『何か』がなくなることを知らなかった頃の僕は、 一体、 何を考えていたのだろう?
――喪失を獲得
それは誰にでも経験のある大人になるための道のり。
今回紹介するのは『喪失』を獲得して成長する三人の少年の話。
――「夏の庭 the friend」―― 著 湯本 香樹実
これは、 三人組の少年が、 ひとりの老人と触れ合い、成長する話。
それだけを聞くと、 ありきたりな童話のようにも聞こえる。
だが、 この小説の少年達は、 老人が『死ぬとき』を観察するために老人を監視していたのだから、すこし毛色が違ってる。
この少年達の老人と触れ合う動機が、 少年期というものを巧みに描いている。
年頃の少年少女は、時に残酷な形で生き物と触れ合っていく。
そして、 そのことをいつしか後悔し、 命の重さを理解するときが来る。
そして、 無邪気さは小さなシコリを残して、 どこかに消えていってしまう。
小説の少年達がそうだったように、 僕たちもまた『喪失』を獲得しなければならないのだろう。
僕たちは喪うことを積み重ね、 成長していく。
だから、 僕たちは喪うことを『過不足なく』食べつくさないといけないと思えるのだ。