NPO法人FDAは就労困難な方に様々な業界や業種で働けるお手伝いをしています。
その一環で株式会社マーチングループ(https://www.doi-hari.com/)
のご支援をしており、代表の土井亮介氏と当法人理事長の成澤俊輔で対談を行いました。
記事をお読みいただき、興味がある方はinfo@fda.jpまでご連絡ください。
成澤:準備ができ始めてきて、具体的に例えば盲学校に行ったりなど、実施されたアクションを教えてもらっていいですか?
土井:一昨年に、初めて盲学校に訪問させていただいて、先生方に「私はこういうことをやりたい」というお話しをさせていただいたんですね。
実際に僕は視覚障がい者の鍼灸師の知り合いがいなかったので、現場の話を聞くのは初めてだったんですけど、実際お話をうかがってみると、盲学校で按摩マッサージ、鍼灸師の免許を取って現場に出ても、もう今は鍼灸をしている人たちがほとんどいない。
在宅マッサージで、訪問に行ってマッサージをするか、ヘルスキーパーとして企業に属してマッサージをするかという形で、鍼がやりたい人たちはたくさんいるけれど、実際には治療院に就職する人も少ないし、鍼を打てる環境にいる人もいないという現状でした。
その先生との繋がりもあって、去年うちの治療院に、盲学校の生徒さんと先生たちが見学に来てくれたんですね。
そのときに、私の熱い気持ちを、視覚障がい者がもっと活躍できる場所を作りたいんだということを皆さんにぶつけたんですけど、ちょっと生徒の子たちが「この人何言っているんだろう…」、ぽかーんみたいな感じだったんですよね。
ただ、治療院業界って、今すごい激戦状態になっていて、おそらく街を歩けば、もみほぐしだ、整体だ、カイロだ、鍼灸だ、マッサージだって山ほどあるんですよね。
コンビニよりも多い。去年は3000件つぶれたと言われているくらい、厳しい業界になっているんです。
だから、その中で、モチベーションが低い、やる気がそんなに感じられない人たちを僕はどうやってその人たちのやる気を起こすべきなんだろうっていうのが、ずっと、ふつふつとした状態で、この先どうやって事業を進めていけば良いんだろうというのがちょっと分からなくなっちゃっているというような。そんなときに、モチベーションの塊のような、なんだこの人みたいな成澤さんをご紹介していただいて、そこから話がまたどんどん進みだした。
成澤:やっぱり人に出会うと話って進みますよね。
土井:ほんとそう思いますね。
成澤:言ったら話って進みますよね。
土井:去年の8月に、見学に来てもらって、成澤さんと会ったのは半年たたないくらいですよね。今年の5月・6月くらいで結局去年の8月から今年の5月くらいまで、なんの進展もなかったんですよね。
成澤さんとお会いして、まだ3回目ですけれど、あっという間に色んな人との接点ができて、色んなアイデアが出てきて、話が進んでいます。
成澤:そういってもらえて嬉しいです。
会社の雰囲気、社風、どんな職場になりますかね?
土井:私たちの理念は、患者さんの人生を変える治療をしようというような、理念でやっているので、どちらかというと治療に対して、熱い熱意を持った人たちですね。あくまでチームなので、お互いを蹴落としあってナンバー1になろうというチームではない。お互いを尊重しながら、感情を尊重しあいながら、患者さんの人生を変えていこう。そのような会社作りをしています。
成澤:僕が最近出会った方に慶応大学の前野先生っていう幸福学の権威の先生がいます。
もともとロボットを作っていた先生で、ロボットを作るときになぜロボットの仕様書に幸せになると書かないのかということを言っている変わった人がいるんですよ。
良い会社、良いチーム、幸せなチームの研究をしていて、四つの言葉、ありがとう、ありのまま、何とかなる、やってみよう。この4つの言葉にあふれている組織や、会社は幸福度が高いという研究結果が出たんですよ。まさにそのとおりだなぁと。ありがとうとお互い言い合えて、ありのままって自分の強みを生かして弱みを補填してもらって、何とかなるっていうのはリーダーの力があって、とりあえずやってみようぜって結果じゃなくてアクションやプロセスを大事にする。確かに良いチームだなと思います。
視覚障がいの方を受け入れるときどんな不安がありますか?
土井:正直、どこまでできるか、何ができるかということも初めは分からなかったんですね。正直、いろんな人たちとお会いして、不安というよりも期待というか、やれちゃうんじゃないかなと。僕としては、視覚障がい者を雇っていいことしていますというよりも、こんなに能力のある人をそのままにして良いの?という感じです。
不安といえば、ヒアリングしている中で、その方々の生活ですよね。仕事においては、全面的に僕や他の従業員でサポートできるけれど、それ以外の生活はどうしてもわれわれではまかないきれない部分や、踏み入ってほしくない部分がありますよね。僕が、仮にこの店舗を持ちました。この駅が住みずらい駅でした。このような形になってしまうと、結局、それでは、意味がなくなってしまう。ただ働ければいい。それでは、先ほど成澤さんが言っていた、幸せにはなれない。この会社で働いて自分の人生が楽しくなってほしい。
成澤:そうじゃなければ、患者さんの人生を変えることはできませんものね。
視覚障害当事者や、お母さん方が、今まで盲学校教育とかもどちらかというと、マイナスを0に近づける文化がある。健常者に追いつこうみたいな。
でもそんなことはどうでも良くて、まだまだできることあるとか、あきらめないでほしいなぁと思っていて。
土井さんに自信がついてきたのは、僕と一緒にいてもらえているからだと思うんです。
自信がない人は、自信がある人のそばにいることで、なんとなく自信がついてきたような気がしてきた、自信があるってこういう状態だなっていうことが動画とか、紙芝居みたいに分かってくると、そのギャップを埋めるためにアクションを起こして、自信がついてくると思うんです。
また違う話なんですけど、関西に面白いオーナーシェフがいて、コンプレックス採用という採用をしているんです。コンプレックスのある人しか雇わない。
コンプレックスがあるということは、理想があるということ。確かに、と思って。
「こんなはずじゃない。」「俺はもっとできるのになんで今ここなんだよ」っていうことをコンプレックスに思っている。理想があり、今の課題を理解できている。だから人はコンプレックスがある。おもしろいなぁと思ったんです。
なのでこの対談も聞いてもらって、当事者や家族に、彼らがやるべきことは自分の強みや好きなことを探し続ける努力だと思っていますし、最初の1歩は彼らが発信し続けていくことで、それに対して僕らや、会社が選択肢を提供することなので。どうしても行政主導でやってきた福祉というのは助成金が入っていたりいろんなお客様がいなかったりしてより良くなろうという機運が非常に少ないんですよね。
それこそ強豪とかブルーオーシャンみたいな言葉だったりとかそんなことまでサービスの品質には全くならないですから。
なのでここは本人とか家族が声を出して強みや好きを探して、そこに会社側がいろいろな準備をしていくという取り組みになるかなという気がするんですよね。
スターを作っていきたいというか、そんな感じですよね。
土井:そうですね。さっき成澤さんがおっしゃったように、学校教育ではマイナスをゼロにする、要は晴眼者に追いつこうというような形。学校で実際に全盲の方の臨床場を見せてもらったんですよ。
そうしたらあからさまに、晴眼者のやるのを、頑張って目の見えない人がやっているという治療だったんです。
これだったら、例えば単純に患者さんが六千円払って、手がおぼつかない中、同じことをされたら、絶対隣の鍼灸院に行ってしまうだろうという形だったんです。
ただ僕は治療が大好きなので、年間何百万円かけていろいろな治療を勉強しているんですが、勉強すれば勉強するほど分かってきたのが、治療って目に見えないところにポイントがあるということ。
ただ、今の学校教育だと、どちらかというと目に見えるものを、目に見えない人にさせている形だったので、本来持っている能力をそぎ落としてしまう感じ。だから教育を抜本的に変えて、僕はずっと目に見えない力をどうやったら成長するんだっていうことをずっと勉強をしてきたので、そのあたりの教育をしていって、本来持っている能力をもっと出してあげれば、我々にはできない感覚、我々にはできない患者さんからの情報を得られるようになると思うので、「鍼灸師は視覚障がい者でしょ」っていう、それぐらいの力を育てたいと思っています。
昔はそれこそ江戸時代の将軍は、視覚障がい者の鍼灸師が治療していた。やっぱり、活躍していた先生たちがたくさんいるんですよ。ただ私が感じたのは、これは推測になってしまいますが、江戸時代は車も走ってないし、自転車も走っていない。
風が吹いていて、夜になれば明かりが消えて、太陽が上がればみんな生活する時代だったので、ある程度自然とともに生活できたと思うんですよ。ある患者さんづてに聞いた話では、目の見えない方がすーっと歩いて家まで何もぶつからずに帰ってくる。「なんでそんなことができるんですか?」と聞いたら、「風でわかる」という話をしていたという逸話があるんですけど、一方現代では風を感じれないですから。
全盲の方が患者さんにいるんですけど、雨の日にうちの治療院に来ようと思うと、うちは駅前で良いですが、自分の家から駅までが数分かかると。雨が降ると車がすごく怖くなるので、車から離れた歩道を歩こうとする。
でもそういう風に歩いていると、マンションの角にぶつかってしまう。いちいち、いろんなものに意識を傾けながら、生活しているので、自然からは離れた、どちらかというと、あーじゃないか、こーじゃないかと頭を使いながら、生活をしてしまっているような生活スタイルに大きく変わってしまっていると思うんです。
治療で感性を磨くとかっていうのは、どちらかというと、より自然的な状態、より力の抜けた状態がすごい大事になってくるので、その状態をこの現代社会で、もちろん晴眼者も含めてですけど、行えるかというと、やっぱりそうじゃない。
情報社会になってきてしまって、頭に色々な情報があるわけで、盲学校の学生にインタビューしたときに言ったのは、「君は目が見えないんだから知識で負けないようにしなさい、という教育をされる」と。
私からしたらまったく真逆のことをしたほうがいいのに、どんどんどんどん知識を入れて、実際現場に立ったら、知識で治療しようとしてしまう。これは本当に実はすごくもったいない。
単純に言えば、野球をやるときに、知識を埋めて埋めて埋めてバットを振れって言っているようなもので、いくら知識を入れても野球は上手にならない。これは野球をするしかないし、なんとなく感覚で体得するしかないんですけど、それと全く真逆なことをやってしまっているような感じがあるので、この辺の教育を変えてやっていけば新たな道は見えてくるし、まだまだまだまだ視覚障がい者鍼灸師が活躍できる場が増えてくると思う。