秋の始まりを感じられるような気候になってきました。秋という季節は、冬のような停滞ではなく、春のような陽気さでもなく、夏のような騒がしさもない。どこか緩やかな季節というイメージがあります。あまり詳しくは知らないのですが、日本文化における侘び寂びの概念を強く感じられる季節でもあるように思います。
水面を照らす月明かり、鼓膜に触れる虫の音、降り落ちる紅葉。紅い葉は水面に着水して、月が揺れます。虫の音がその風景に情感を添えます。秋は奥深いのだと思います。秋という季節は表面がとても静かであるがゆえに、深みを見通しやすいのだと思います。
村上春樹さんは、井戸をよく比喩表現として使われることが多いように思います。たいてい井戸は枯れて水が入っていない。感性の優れた方ですから、人の内面という深度の深いものの比喩として、枯れた井戸を用意したのだと思います。そこに水が存在しないという点が、村上春樹さんのすごいところではないかと何となく思います。
ぼくの感覚では、秋は水が入った井戸です。底まで見通すのは難しい。だけど、とても深くに底があることはわかります。底までの深さはおそらく自分で設定することができる。意識的にではありません。無意識的に深みは決められる。その井戸がどのような深さと広さを持っていようとも、それがその人の感性です。その人の無意識が教えてくれた感性の形です。その形を通して秋を捉えてみれば、どのような秋のイメージを感じることできるでしょうか。それが皆さんの秋です。
ここまでご精読いただけた方に感謝を。どうかお体に気をつけて。